◯年の瀬の約束事。
私達が活動の本拠地にしている六本木鳥居坂の近辺は、もともと江戸時代からの武家屋敷跡だそうだ。
ここ10数年過ごしているMajestyは、浅野セメント財閥の浅野家の皆様がオーナ−である。建物の玄関口には、必ず四季折々に、季節の花が設えられ、建物の周囲には、先代がこだわりぬいたと言われる植栽が美しく配置され、東京の真ん中にあって、実は季節毎に鳥や蝶が訪れる自然サイクルに包まれたサンクチュアリでもある。
エントランスには、クリスマスには大きなクリスマスリースが、お正月には、大きな門松がしつらえられる。今年も入り口の左右に、松・竹・梅の紅白が彩られている。
小さい頃から、年末のしつらいには、父母もこだわりがあったので、「一夜飾りはしてはいけないよ」ときかされてきた。「することはきちんとして福の神様に感謝しなくちゃいけないからね」。いまだに、私の家でも、年を重ねた父母は、えっちらおっちらと門松をたて、お正月お飾りを玄関や家中の水回りや火回りにめぐらし、お正月の準備には余念ない。「気持ちがあらたまる新年のはじめ」のしるしには、子供の頃から、馴染んでいた。
Majestyの隣のシンガポール大使館も、花壇にクリスマスにはポインセチアを、お正月にはシクラメンを植えるという配慮があり、その美しさを眺めつつ、鳥居坂を下れば、そこは麻布十番商店街が広がる。歳末の賑わいは下町風で、通りのスピーカーからは、何だか昭和初期風の音色で「もうーいーくつねーるーとーおーしょーうがーつーーー」という子供の歌声が聞こえてくる。これもまた、味わいがあるものだ。でも、最近は、「お正月には、凧揚げて、コマをまわして遊びましょう」という風景は、見かけなくなったように思う。子供のころは、羽子板でつくばねをコンコンと音たてて遊んだものだったけれど。自動車にも、いまや、わざわざお飾りをすることも少ないようだ。でも、やはり小さな頃から馴染んだ父母の歳末の新年準備の影響もあり、Majestyでも、私たちの車だけには、ぞれぞれお飾りもきちんとつけて新年を迎える約束事である。
今年は年末年始返上での仕事体制なので、山積仕事の合間に、十番商店街で、基本的なお正月の迎え方の例年の約束事を考えながら散歩した。
1.一夜飾りはいけないので、12/29には、29−フクがくるようにと、十番商店街でお飾りを買った。毎年、職人さんが正月飾りの店小屋をたてる。そこで、玄関お飾りと自動車用のお飾りと、輪飾りをいただく。プラスチックなどは使わない、自然素材を使った職人芸によるものに限る。今年は、輪飾りのウラジロが大きく広くすばらしく、そこにそえられた白い紙の御幣も美しいので、玄関のお飾りも輪飾りにして、シンプルにお供えした。車のお飾りは、ちょっと小さめのかわいいのを愛車のフロントキドニーグリルの真ん中につけた。
そこで今日の散歩である。
2.ビスコというお花屋さんで、まずはぱっと開いた大王松に赤い実が連なる千両・万両をいただく。「バラの花もいいですよ」というご主人のおすすめで、そちらも購入。うっとりとした香りがよいお正月の生花を、オフィス玄関正面に活けることにする。ご主人がおすすめ上手で、「良いお年を!」と笑顔で声をかけてくれて、「縁起ものを気持ちだから、おまけしちゃうよ。」といって500円お値打ちにしてくれた気持ちがうれしい。
3.そのビスコの向かいにある明治23年創業の手焼きの銘菓の老舗、紀文堂さんで、七福神の手焼き人形焼きをいただく。香りが甘く香ばしい。七福神のユニークなモチーフの紀文堂の袋に商品を入れていただく。いつもその絵の楽しさについついにっこりしてしまう。七福神も思わず寛いで、お皿に盛られた紀文堂の銘菓を囲んでわいわい楽しんでいるという団欒図である。お店も繁盛で、吉祥の新年のお年賀にはぴったり。麻布十番文化のなかに、明治の雅味の風味が今に受け継がれているのはうれしい。
4.つづいてやっぱり吉を担ぐなら、めでたい鯛焼きである。自ずと知れた十番名物の浪花やさんで、2匹入手。スタッフと吉運を願って、めでたくほおばるのである。なんといっても、浪花やさんの鯛焼きは、下町情緒たっぷりの風情ある店先から、独特の濃厚な甘い香りがたちこめていて、ついついお店に引き寄せれてしまう。その年季の入ったお店の扉を開けて、代々受け継がれる鯛焼きの型でつぎつぎすばやく焼き続けているお兄さんに、「ください」と言っても、「2時間待ちだよ」とすげなく言われるのが、常である。前もって電話予約して、名前を言って、とりにいくのが、基本である。それにしても、そのあたまからしっぽまであんがしっかりつまったはいった、香ばしい鯛焼きの味は、他にはない魅力もうれしい。
5.そのお隣のたぬき煎餅である。ここには、店頭に全宝大膳神様にちなんだ、大きなたぬきさんの信楽焼が迎えてくれる。たぬきを象ったとっても庶民的なお煎餅なのに、皇室膳御用達の銘菓であるときくのもなんだか愉快だ。松竹梅などを作り込んだお正月干菓子を、日本美人の絵を描いた羽子板の形をした入れ物にいれてくれるので、スイスからの友人のために購入。日本文化の香りをうれしく受け取ってくれたらうれしい。
6.そしてやっぱり年越しは、年越しそばである。永坂更科総本家の前には、長い列。店内で食すのもよいけれど、店頭に用意してくれる年越しそばを持ち帰ると、毎年、おそばの上に「御宝船」が乗ってくる。なかには、初夢のために、枕下にしのばせる宝船の絵がはいっているのである。更科総本家蔵版の宝船の版画は、七福神が宝船に乗って、吉兆寿ぐ、それはめでたい絵柄で、そこには回文がしるされていて、いつも感心してしまう。「なかきよのとおのねふりのみなめさめなみのりふねのおとのよきかな」。上から読んでも下から読んでも回文である。明治の末頃までは、お正月元日には宝売りがいて、一艘の帆掛け船に、各種の珍宝を満載してその上に七福神の乗った絵を売りにきたものだとかで、実に天下太平を象徴する新春の一風物詩だったそう。その風情を、こうしてお年玉のように年越しそばのなかにひそませてくれる心配りは、数年前にはじめて包みを開いた時、想像しなかった期待以上の大きな感動があった。以降、すっかり、ファンになってしまい、毎年、日本に居る年越しには、必ず入手する約束事になっている。おいしいおそばをいただきながら、今年も平安に年越しさせていただけることは、誠にうれしい。

そのような歳末からお正月を迎えるにあたっての十番散歩から戻り、一年を振り返っても、今年は実に忙しかったけれど、新たな仲間達との出会いとその幅広い活動にも恵まれて、心新たに来年への鋭気を養うべく、新春を迎える心構えである。
本年も誠にありがとうございました。
新年もひきつづき、どうぞよろしくお願いいたします。
仲間の皆が、わーっうれしい!っと言ってくれるような仕事に誠実に取り組むことを、麻布十番の美味しい幸運をいただきながら約束いたします。