震災から2週間が過ぎ
これまでを振り返り・これからを考える。
今日いわきから避難していた家族が実家に戻った。
福島原子力発電所からの放射線被害について
三歳と六歳の子供が一緒だから心配で
まずは東京へ来て私のところで1週間ほど起居して
様子を見守っていたが
いわきの水道が復旧したということ。
そして政府からの発表では放射線被害が直接に悪影響を
与えるほどではないという状況が見えてきたこと。
知り合いの科学ジャーナリストと放射線技師の方が
プロフェッショナルの知見から現放射線については
懸念は無用とのこと(後にお二人の記事を添付)。
更に、六歳の子のこの春からの小学校への入学情報が
地元に居ないとその情報収集ができないということもあり
やはり住み慣れた家へと帰郷することとなった。
今日はEarth Hourを迎える。
2年前に私はこのEarth Hour をNew Yorkで知った。
その時のことは以前にこのBlogでも記している。
http://bit.ly/frgiLHその2009年の世界の様子は以下で見ることができる。
感動をもって見つめたことを思い出す。
この世界中の大きな写真の上をクリックすると変化する
その都市の様子の変化に深い感慨を覚えた印象は忘れられない。
http://www.boston.com/bigpicture/2009/03/earth_hour_2009.html世界中で電気を消して灯の中に大切な人たちと語り合い
私たちの地球環境の原点を想う貴いひととき。
残念ながら日本は入っていない。その後も入っていない。
地球人の一人として
今夜8:30ー 浄闇の中で一本の蝋燭の灯を囲み
私たちの未来の光を祈り願いたいと思う。
人類のCleanな環境を
次世代にも次次世代にも継承するためには
人々の情報開示も人心もCleanでなくてはならない。
科学ジャーナリストの青木満さんと出会ったのは
現JAXAが宇宙開発事業団の時代に
その主催する宇宙関係のイベントで
司会の仕事をさせていただいたときに
お声をかけてくださったのだった。
以来、さまざまな貴重な科学的視点からの情報を
ご教示くださっている。
今回は、お知り合いの放射線技術者の川田さんに
放射線の身体に及ぼす影響についてお尋ねになり
また、風評被害の本質的な被害について取材され
お二人のやりとりに時間と手間をかけて監修された
記事をご送付くださり
本Blogにアップすることをご了承くださった。
誠にありがとうございます。
この記事を読まれた皆様と共に
Peacefulなひとときを
世界中の人たちの想いと一つに過ごされますように。
________________________
東電・福島第一原発放射性物質漏洩事故に関する
風評・デマにご注意!
文責: 青木 満(科学ジャーナリスト)
協力・監修: 川田雅士(診療放射線技師)
3月11日午後2時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0という、史上最大級の巨大地震が発生。激しい揺れに続き、広範囲にわたり波高10mを超える巨大津波が襲来し、未曾有の大惨事を招き、戦後最大の人的・経済的被害をもたらした。
この津波により、福島県の東京電力第一原発に壊滅的な被害が発生し、複数の原子炉から放射性物質の漏洩が発生。(一部は、内部の圧力を安全なレベルにまで下げるために人為的に圧力抜きを行ったことに伴う外部への放射性物質の放出を含む。)
その後、炉心の冷却水を巡回させるポンプの電源等が機能しなくなったことで核燃料や使用済みの核燃料を保管した水槽の水温が上昇を続け、冷却水の蒸発等に伴い核燃料が冷却水から露出する事態に至った。このままでは、核燃料が溶融(メルトダウン)することでさらなる放射性物質漏洩の危険性が高まった。
そこで自衛隊や消防庁などが連係し、炉心溶融という最悪の事態を防ぐべく、ヘリコプターから、そして地上から、とくに破壊の著しい3号炉に対して放水を実施。隊員たちは放射能による被ばくの危険性を覚悟の上で、命がけの作業を続けたお陰で、徐々にその効果が現れた。同時に、1号炉と2号炉に対しては、東北電力の回線から迂回させることで電力を確保し、本来の冷却装置を稼働させて炉心をはじめとする本格的な冷却手段を講じる準備を進めているところである。
* * *
ところが、このような懸命なな作業をよそに、人々の放射能に対する漠然とした恐怖心につけ込んだ愉快犯的な極めて悪辣卑劣なデマ・風評が、主にインターネットやチェーンメール(いわゆる「不幸の手紙」の電子メール版)を通じて巷に広まっていることは由々しき事態といえるだろう。
過日の「コスモ石油貯蔵施設の火災に伴う化学物質の雨が降る」という、完璧な「デマ話」がネット上で大賑わいしたが、このプラント火災で燃えたのはLPGであり、燃焼しても有害物質は発生し難く、雨で健康被害を被ることは実質ない。
そのことを否定され、ようやく落ち着きを取り戻したかと思いきや、こんどは東電・福島第1原発事故に伴い、「人体に有害な放射線が漏洩しているので、放射線障害(甲状腺がん)の予防のためにヨウ素(うがい薬の「イソジン」など)を飲むように!」という、“嘘八百億”ともいうべく「大デマ」がまことしやかに流れている。そして現実に、そのようなデマを信じ、イソジンを飲用した方まで実際に現れた。こうなると、もはや冗談では済まされない「犯罪行為」と糾弾されて然るべき事態といえよう。
日本は世界で唯一、戦時における核爆弾による被爆国として、国民全般に放射線アレルギーを有しているが、実は、私たちは知らぬ間に宇宙から、そして地球からの自然発生的な放射線を受けている。そのような環境の中、私たちは日々の生活を送っているのである。
よって、あまり神経質になる必要はまったくない。
とはいえ、相手は目に見えない放射性物質。一般に放射線とはどのようなものか、どのような危険性があり、どの程度ならば安全なのか、その見極めが素人にはできないゆえに、余計に不安に駆られるもの。
たとえ目に見えない物質でも、その正体を知り、私たちが日常置かれている環境を正しく理解できれば、デマ話などに翻弄されることなく落ち着いた対処ができるはずだ。
そこで、日々放射線に向き合っている専門家、とみまつ小児科循環器クリニック・診療放射線技師の川田雅士さんに、今回の放射性物質漏洩事故に対する私たちの心構えを、日常生活への影響を、危険の度合いを伺った。
以下は、一般の方が抱く疑問や不安に対し、川田さんからのご教示をもとに、放射性物質の私たちの身体や生活への影響の度合いを、そして私たちがどのような行動をとるべきかを易しくまとめたものである。
★破壊された原子炉から、どんな物質が漏洩したのか?
今回の東電事故では、まず放射性物質を微量に含む水蒸気の放出が発生した。続いて、原子炉格納容器に繋がる圧力抑制容器が破損した恐れがあり、放射性のヨウ素131とセシウム137 が漏れた可能性がある、と思われる。
この二つの放射性物質は気体になりやすいため、水蒸気に含まれやすい。
※ヨウ素は184℃で、セシウムも678℃で気化する。
★チェルノブイリ事故の二の舞いか?
しかしながら現在のところ、燃料棒が入っている圧力容器は無事とのことなので、チェルノブイリ事故のように大量の放射能が漏れているということはない。(そもそも、福島原発とチェルノブイリ原発とでは、同じ「原発」とは言えど、両者の原子炉の構造がまったく異なり、構造的に考えても福島での事故がチェルノブイリ級の大規模放射線汚染には至らないと考えられる。よって、チェルノブイリ事故と単純に比較する意味がないし、過度な不安を抱く必要もない。)
現在、問題になっているのは原子炉を冷やすための水に微量に含まれる放射性物質(放射能)が漏れているという状態で、これは原子炉圧力容器の圧力が高くなりすぎて破損することを防ぐため、やむなく圧力を逃がすために水蒸気を放出したことによるものである。
★被ばくとは……
先のとおり、我々は日常生活においても自然界から放射線を浴びている。自然放射線は世界平均で2.4mSv(ミリシーベルト)であり、その内訳は16%ほどが宇宙線由来のもの、その他が地球起源の放射線である。
岩石や鉱物に含まれる放射性物質の多くはカリウムである。そのうち0.0117%が放射性のカリウム40である。私たちの体内にもカリウムは含まれており、私たちは、私たちの体の構成物質からも常に被ばくを受けている。(1年間に0.2mSv程度)
カリウムを含む食品も同様に、カリウム中に含まれる放射性のカリウム40により、食品の摂取でも自然放射線を被ばくする。
また、自然界にはラドンガスが存在し、その吸入による内部被ばくもある。
★地域により被ばくの程度が異なる
地球起源の放射線に関しては、地域によって程度の差が存在する。世界平均は2.4mSvだが、日本は比較的自然放射線量が少なく、平均で0.98mSv程度(宇宙線と地盤からの外部被ばく+食物からの内部被ばく)となっている。日本はラドンガスの発生が少ない地域なので、ラドンガス吸入を考慮していない数値である。
ブラジルでは、年間10mSvくらい受けるそうで、世界平均の4倍もの値に相当する。このように国や地域により、自然に被ばくする線量も異なってくる。そこで、以下の考察では、世界平均の2.4mSvを用いて話を進める。
※単位について: 2.4mSv(ミリシーベルト)=2400マイクロシーベルト。
★レントゲン撮影での被ばくの程度は?
もっとも一般的な胸部のレントゲンでは、正面の撮影1回につき0.05mSv。バリウムの検査では8.7mSv前後、胸腹部CTでは7.7mSv前後の放射線量となる。
したがって、胸部正面のレントゲンを48枚撮影して、ようやく自然放射線の値2.4mSvに
達することになる。
もちろん、バリウム検査やCT検査を受けても被ばくによる問題が起こることはなく、自然放射線の値2.4mSvという値がいかに小さなものであるか、お分かりいただけるだろう。
★放射線に対する2種類の影響とは?
放射線に対する影響としては、「確定的影響」と「確率的影響」の2種類がある。
確定的影響とは身体的な影響で、しきい値を持ち、ある一定の値を一度に浴びて、初めて発症がみられ始めるもの。(言い換えれば、一定値を超えなければ発症しない。)
妊婦の腹部被ばくでの胎児への影響は100mSvから。胎児以外を考えるならば、白血球(リンパ球)の一時的な減少が現れるのが250mSv、男性の一時的不妊が150mSv。これらの値以下では症状が発症することは無い。
また同じ線量でも、いちどに被ばくするよりも、時間をかけてゆっくりと被ばくした場合の方が、害は少ないといえる。これを「線量率効果」という。(線量率=線量÷時間)
これはDNA(デオキシリボ核酸:遺伝情報を担う高分子生体物質)の自己修復機構によるもので、分裂能力のある細胞はこの機構を備える。ただし、男性の一時的不妊に関してはこの効果がない。
なお、これは放射線の種類にもより、X線、ガンマ線、ベータ(電子)線はこれに該当する。しかし、中性子線、アルファ線、重粒子線の場合には、あまりこの効果はない。
確率的影響は発がんと遺伝的影響で、こちらにはしきい値はないが、医療被ばく程度では有意に発がん率が増えたというデータはない。
むしろ、喫煙や太陽光に晒されることでの発がんのリスクの方がはるかに高い。
先ほど、妊婦の腹部被ばくでの胎児への影響について述べたが、100mSvに満たなければ、胎児への身体的影響(奇形や知能指数低下)はない。
確率的影響に話を戻して、出生児の発がんのリスクはどうだろうか。これは文字通り、確率的影響なので、しきい値はないが、最近の胎児被ばくの研究では、がん発生の絶対リスクが推定されている。それによると100mSvの線量で、胎内被ばくして出生した0~15歳の小児のがん発生は10万人あたり600人(0.6%)となる。この種のリスクは線量に比例すると考えるので、線量が倍の200mSvでは10万人あたり1200人(1.2%)になる。
いづれも高くはない数値であるが、確定的影響である身体的影響、確率的影響である発がんリスクを両方考えても、判断基準は100mSvといえる。
★遺伝的影響について
遺伝的影響とは、わかりやすく言えば親(となる人)の被ばくによる将来の子への影響である。これについては広島と長崎の生存者の遺伝的影響が長年に渡って調査されてきた。
1965年に広島と長崎の小学生から高校生まで20万人の身体発育実態調査をもとに分析した結果、親の世代の被ばく群と被ばくのない群とで、発育の有意な差異は認められなかった。核放射線に被ばくした親から生まれた二世の身体発育に、影響はなかったのである。
染色体異常の発生率の調査に関しても、1967年~1985年の間に調査され、核放射線被ばく者二世に対する染色体調査から、遺伝的障害の増加は証明されなかった。
この理由には、遺伝的影響が二世以後に発生しないような淘汰のメカニズム(傷害を受けた遺伝子は、後世への遺伝に用いられず破棄される)の可能性が指摘されている。
★東京で観測された放射線量は?
一時期、東京で約0.8マイクロシーベルト毎時の放射線量が計測された。(現在はもっと下がっている。)
これを24時間、365日、つまり1年間に渡り同レベルの放射線を浴び続けたとしても、年間7008マイクロシーベルト。つまり、約7mSvである。世界平均の自然放射線比で2.91倍となる。(測定値には自然放射線を含んでいる。これを「バックグラウンド」という。)
ただし現実には、年間を通じて同レベルの放射線を浴び続けることはあり得ないため、実際にはこれよりも相当低い値にとどまる。
★放射性物質は時間の経過と共に減っていく
放射性物質(放射能)には「半減期」(放射線量が半分になるのに要する時間)があり、いま話題になっているヨウ素131は8日で半分の量になる。
さらに風向きや自然界で拡散されることで一定面積あたりの放射性物質量は減るので、
実際は半減期よりもずっと短時間に減少することになる。
★原発付近の状況は? 作業員の安全性は?
原発付近では、一時期40万マイクロSv、すなわち400mSv毎時という高い値が示され、これは確かに人体に影響を及ぼす線量である。
そのような環境に1時間滞在したならば、体内では白血球の減少や男性の一時的不妊などの身体症状が発症する。ただし、この線量でも自覚症状としては出ないことが多い。症状が出たとして、軽い吐き気、おう吐、食欲不振が起こることがある。この症状が出るしきい値は500mSvであり(前述の国際基準はここから来ている)、300mSvまでは急性症状は起こらないとされているのである。
今回、25万マイクロSv(250mSv)まで安全基準を緩めたとのことだが、この量は前述のとおり、一時的な白血球の減少が起こり始める量に当たる。(あくまで一時的で、時間の経過に伴って元に戻る。)
しかし、幸いにも放水作業に当たった消防士たちの被ばく量は、従来基準の10万マイクロSv前後だったとのことで、そのことでの健康被害は実質ないといえよう。
なお、40万マイクロSv、すなわち400mSv毎時の環境では、33分までの作業しかできないが、これはあくまで「裸」の状態でのこと。実際は防護服を着用するので、被ばく量はぐんと低くなり、もっと長い時間の作業が可能となる。
作業員はアラーム付きのモニタ線量計を装着しており、規定値を超えるとアラームが鳴り、作業を中止する。さらには、放射線専門医の監督指導の下で作業に当たっているはずで、ある程度、安全性は確保されていると思われる。
★甲状腺とヨウ素の関係
甲状腺はヨウ素を取り込み、甲状腺ホルモンを作る組織であるが、食物から十分にヨウ素を摂取できている状態では甲状腺はヨウ素で満たされている。(ここでいうヨウ素とは「安定ヨウ素」といい、いわゆる放射線を出さない普通のヨウ素のこと。)
ところが普段からヨウ素の足りない食事をしていると、甲状腺にヨウ素を溜め込む「空きスペース」が生じ、その状態で放射性のヨウ素を摂取すると、放射性ヨウ素を溜め込んでしまう可能性がある。
放射性ヨウ素は、呼吸や食物とともに体の中に取り込まれ、甲状腺に集まる。そのため、甲状腺がんの原因になる恐れがある。
★ヨウ素剤の効果は?
ヨウ素剤は、事故の規模などから計算して、甲状腺の線量が100mSvを超えると予測された時に配られる。
※現状では、3月16日以前に避難区域(原発から半径20km)に避難された方は不要。
前もってヨウ素剤を飲んでおけば、放射性ヨウ素が甲状腺に集まることを防ぎ、尿や便から排出され、発がんの危険性(リスク)を低減することができる。
ヨウ素は体に取り込まれても10~30%しか甲状腺には集積されないが、予め非放射性(普通の)ヨウ素を体に取り込み、甲状腺に溜め込んでおけば、甲状腺は普通のヨウ素でいっぱいになっているため、甲状腺にこれ以上ヨウ素を溜め込む「空きスペース」がなくなり、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積を未然に防げる。
しかし、これは大事故で大量の放射性ヨウ素の吸入の恐れがある場合で、現段階では必要はないと考える。
ヨウ素は海産物、とくにコンブに多く含まれる。コンブ乾燥重量100g当たりには100~300mgのヨウ素が含まれている。しかし、コンブを食べることにより、短時間に大量のヨウ素を体内に取り入れるのは難しい。
★チェルノブイリ事故とヨウ素剤
今回のデマ騒動の根拠となったのが、チェルノブイリ事故におけるヨウ素剤の効用だろう。この事故をきっかけに、広くヨウ素剤の効用が知れ渡ったといっても過言ではない。
チェルノブイリ事故後、東欧諸国で小児の甲状腺がんが増加したが、この原因は粉ミルクに放射性ヨウ素が含まれていたことによる内部被ばく(体内被ばく)であった。チェルノブイリ事故では、今回の東電事故とは比べ物にならない多量の放射性ヨウ素による汚染が発生したからである。
事故後、ポーランドでは安定ヨウ素剤を配布されたが、ウクライナやベラルーシでは配布されなかった。そのため、ウクライナやベラルーシでは小児甲状腺がんが増加したが、ポーランドでは増加しなかった。
しかし、ヨウ素剤の有無だけが結果に影響したのかというと、そうではない。ウクライナ、ベラルーシは内陸国で、もともと土壌にヨウ素が少なく、その土壌で生産された食物からは十分にヨウ素を摂取できなかった。(普段からヨウ素不足で、甲状腺にヨウ素の空きスペースがあった。)
一方、ポーランドは海沿いの国で、土壌のヨウ素不足もそれ程ではないのに加え、事故後、ポーランド政府は国産牛乳の飲用を禁止し、すべて汚染地域外から輸入した粉ミルクに切り替えた。これら複合的措置が結果に影響したのであり、安定ヨウ素剤の有無だけがすべてに影響したわけではない。
食物中、土壌中のヨウ素量の多い日本では、通常の食生活を行うことで十分にヨウ素を摂取できており、自然と甲状腺は安定ヨウ素で満たされる。ごく少量の放射性ヨウ素が、健康に影響するほど容易に吸収されることはない。
したがって、むやみに安定ヨウ素剤を服用する必要はない。
なお、安定ヨウ素剤の投与は、一度に多量の放射性ヨウ素の被ばくを受けた40才未満の方に対して1度だけ服用し、その後は被ばく地から待避することが前提となる。
だが、現状で1度だけ安定ヨウ素剤を飲んでも、むしろ甲状腺機能が不安定になり、リバウンドで一定期間後に放射性ヨウ素の吸収を高めてしまうことさえ起こりかねない。
したがって、素人判断で安定ヨウ素剤の服用は厳に慎むべきことであり、本当に服用を要する場合には、必ず専門医の指導のもと行うべきである。
★ヨウ素剤の副作用は?
さらに、ヨウ素剤を服用することは、非常に稀ながら副作用も考えられる。ヨウ素剤を服用したときに起こる副作用は大きく二つに分けられる。
一つは、多量のヨウ素が甲状腺機能を抑え、甲状腺機能低下症になること。二つ目は、逆に甲状腺機能亢進症を起こすことである。これはヨード不足の地域で見られることで、ヨウ素を充分にとっている日本人にはほとんど見られない。
ヨウ素剤の服用による副作用について、国際原子力機関(IAEA)の資料では1日当たり300mg(ここで決められた服用量の4倍~8倍量)のヨウ素を服用した場合でも、100万人~1000万人に1人の確率で皮膚のかゆみや紅斑、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症などの副作用が出るとしている。死亡する確率は10億分の1とされている。
チェルノブイリ事故の際に、ポーランドで小児1050万人にヨウ素剤を与えられたが、そのことによる副作用は報告されていない。
本来、ヨウ素というものは人間の生命にとって無くてはならない甲状腺ホルモンを作るために必須の元素である。生体にヨウ素に対する拒否反応がある方が生命にとって危険である、と考えられる。
ヨウ素剤によって、体の中に取り込む放射能を少なくできるのは放射性ヨウ素だけである。他の放射性物質、放射線に対してヨウ素剤はまったく効果はなく、それらの物質はできるだけ取り込まないように注意するしかない。
★ヨウ素入り「うがい薬」を飲まないで!
一方、デマに登場したヨウ素を含むうがい薬(イソジンなど)や、外用薬を飲むことについては、安全性が確認されていない。乳児の場合には成長障害を引き起こす危険性さえもある。
また、これらの薬剤はヨウ素含有量が少ないため、放射性ヨウ素が甲状腺に集まるのを防ぐ効果も少ないといわれている。
※うがい薬「イソジン」等、あるいは同様の消毒薬を飲用することは絶対にやめてください! 放射線被ばくによるリスクよりも比べ物にならない大きなリスクを伴います。
★現状では、危険レベルには達していない!
現状では、自然放射線からの被ばくを含め、世界平均値の2.4mSvと比べても2.91倍に過ぎず、ましてやこの状態が恒久的に続くものではないことから、私たちの健康面への影響はまったく問題ないと考えられる。
軽微な放射線被ばくでは、むしろ「気持ち」の問題の方が大きく左右する。不安に思うことにより体調に影響を及ぼすことがあるからだ。これは薬学的にいう「プラシーボ効果」(たとえば、ビタミン剤なのに「頭痛薬」といわれると頭痛が治ってしまう現象など)に近いものがある。
みなさんが不安に思うお気持ちはお察しするが、世界には高標高、地質的な関係により、年間10mSvを超える自然放射線を受ける地域も存在する。しかし、彼らに有意な発がんリスクのデータは存在しない。
さらに、この線量では確定的影響(身体的影響)はないので、どうぞ安心して頂きたい。
★既に放射線被ばくした方は……
今回、被ばくに関する検査を受けられた方の中に、いくらかの放射能汚染が生じていることが政府発表で報告されている。だが、その場合には除染(洗浄)の上、適切な指示が与えられているので、その指示に従えば問題はない。
圏外の住民の方々の検査結果では、多くの方が「汚染なし」とのことである。(圏外の方々では甲状腺に悪影響を与えるほどの体内汚染が起こっているとは考えられない。)
3月17日に、福島市内の上水道中の放射性ヨウ素などの濃度が若干増加したと報道されたが、その後は通常の飲用に問題がないとされる規制よりも下回る値を示している。
なお、放射性ヨウ素による甲状腺癌発がんの発生率は40才未満、とくに放射線に敏感な小児に高く、それ以上の方では甲状腺がんの発生はほとんどない。
★東京周辺の水も放射能汚染されたが……
3月23日、衝撃的な発表がなされた。それは、前日に採取した葛飾区・金町浄水場(利根川の支流である江戸川から取水)の水道水中に、規制値(1kg当たり100ベクレル)の約2倍に当たる放射線量(最大値:210ベクレル。その後は徐々に低下し、24日朝には規制値以下の79ベクレルまで低下。ベクレルとは、放射線の強さを示す単位)を示す放射性ヨウ素131が検出されたという。
さらに22日に採取した、同じく利根川水系の水道水から放射性ヨウ素131が検出され、ちば野菊の里浄水場(千葉県松戸市)で220ベクレル、同市・栗山浄水場で180ベクレル、新郷浄水場(埼玉県川口市)では120ベクレルの値をマークしたことが24日に判明した。
放射性ヨウ素131が含まれる水を煮沸しても、それを気化させて排除することはできない。しかし、ヨウ素は活性炭に吸着する性質がある。家庭用の浄水器でのヨウ素排除の可否や、排除できるレベルは浄水器ごとに異なるため、各メーカーに問い合わせる必要があるだろう。(浄水器への過信は禁物。)
仮に、100ベクレルを超える水を長期間に渡り飲用し続けた場合、1歳未満の乳児には健康障害の恐れがあるため、政府は乳児へのこれら浄水場からの水道水の摂取(粉ミルクを水道水で作るなど)を控えるよう勧告をした。(金町浄水場からは、東京23区の他、稲城市、多摩市、町田市、三鷹市、武蔵野市へも供給されている。)
実際にはあり得ないことだが、もし、金町浄水場でのこの値が継続したとして、乳児に健康被害の恐れが生じ得るには1700リットルほど、成人ならばさらに6倍ほどもの水道水を飲み続けての話に過ぎない。ましてや、短期的な摂取ならば、乳児も幼児も、もちろん成人も、いっさい懸念はない。
※この値は3月22日の検査時に示された値であり、その後の金町浄水場での放射線レベルは低下しており、現在はより安心して頂けるレベルに達している。なお、計算方法により上記の摂取量が異なるが、健康被害をもたらすに至るには、いずれも大量の水道水の摂取が必要であり、現実的な話ではない。
しかし、衝撃的な報道発表であったため、スーパーなどにミネラルウォーターを買いに走る方が殺到し、たちまちミネラルウォーターが品切れになった店が続出。たとえ、ミネラルウォーターが手に入らないからといって、赤ちゃんにミルクを与えないことによる健康被害の方がはるかに大きいので、これまた過度な反応は考え物である。
※ミネラルウォーターならば何でも安全というわけではない。日本で売られている多くのミネラルウォーターは「軟水」であり問題ないが、中には「硬水」のものも売られているので、それを赤ちゃんに摂取させると下痢の原因になりかねない。また、成人においても大量に硬水を摂取すると同様の症状が生じる恐れがあるので、ミネラルウォーターの購入に際してはその水の「硬度」を確認して頂きたい。
ただし、実際に健康被害が生じ得ないレベルであるということと、自分が飲む水にたとえわずかな量であっても放射性物質が含まれることへの抵抗感は別物。私自身、自宅に供給されている水に放射性物質が含まれていたことを知り、確かに気分のよい話ではない。 どうしても精神的なストレスに感じる方は、放射能汚染エリア外からの湧き水で作られたミネラルウォーターを飲用するのも、あくまで「気分の問題」として仕方がないかも知れないが、できればそのような感情的な行動に走ることなく、ミネラルウォーターは乳児に回して上げて頂きたい。みなさんの、理性的な行動を期待したい。
★生体には、自ら「排除機能」が備わっている!
一時的に放射性ヨウ素131を取り込んでしまったとしても、先に見たとおり8日毎に放射線量が半減する。これは「物理的半減期」といい、何もしなくとも8日経つ毎に放射線レベルが半減するもの。(16日後には4分の1に低下。)
一方、生物は排泄行動によっても放射性物質を体外に排出できる「生物学的半減期」が別途存在する。
したがって、実際の半減期(有効半減期)は、物理的半減期と生物学的半減期、両者の効果がきいてくるため、単純な物理的半減期よりも大幅に早い段階で体外に放射性物質を排出できるので過度な心配は無用である。
★露地物の野菜は大丈夫か?
福島県をはじめ、周辺の地域からのほうれん草など露地物野菜の流通、さらには摂取(食用)を政府が禁じたことで、国民の不安がよりいっそう加速された、と言ってもよいだろう。政府の発表の仕方からして不適切なもので、あのようなかたちでの発表は不要な不安を与えることにしかならない。
現在確認されている放射能汚染レベルで試算して、たとえばほうれん草を洗わずに食べたとしても、年間83kgも食べないと危険なレベルには達しない。実際には洗わず食べる人はいないだろうから、洗浄することで野菜に付着している放射性物質は10分の1以下に激減するとされるという。(その洗浄水が、先に述べた微量な放射性物質が含まれる水道水であっても結果は同様。)
となると、実際には年間830kgものほうれん草を食べて、はじめて健康被害が懸念されるレベルに達するのであり、こんなに多量にほうれん草(他の露地物野菜でもほぼ同様)を摂取する人はいないだろうから、これまた安心してよいレベルと言える。
★魚介類や海草は安全か?
福島第1原発に隣接する海からは、海水中に規制値を大幅に上回る放射性物質が含まれていることが判明した。これは、大量の放水作業により放射性物質に汚染された水が海に流れ込んだものと考えられる。
そのため、かつての水銀汚染のような漁業被害が起きるのでは、との懸念も聞かれるが、水銀汚染と放射性物質による汚染とではまったく事情が異なる。
放射能汚染された海水を摂取した魚や海草により、汚染物質が「生物濃縮」されることはある。だが、放射性物質には先に見たとおり半減期が存在する。また生物学的半減期も加算され、水銀汚染のようにいつまでも魚介類や海草などの中に汚染物質が留まるものではない。仮に、そのような魚などを人間が摂取しても、人間も「生物学的半減期」が存在する。さらには、海流のために汚染物質は時間の経過と共にどんどん拡散されていき、放射能レベルは低下の一途をたどる。
現在、この水域での漁業は行われていないことからしても、いま、我々が慌てて魚や海草類の摂取を控える必要などまったくない。(将来的に、この水域での漁業が再開されたときでも、その時には問題のない放射能レベルまで下がっているはずで、安心して魚介類や海草を食べることができる。これまた風評などに惑わされることなく、どうか安心して頂きたい。)
★それでも対策を考えるならば……
ごく微量であっても、空気中に浮遊する人工放射性物質を体内に取り込むことを避けることは被ばく低減になるので、屋外でのマスク着用をお勧めする。
また、むやみな肌の露出を控えるに越したことはないが、都内を含めた一部の100円ショップなどでは、ここ数日で急激にレインコートが品切れ状態になっているという。原因は、外出時に(たとえ晴天であっても)レインコートを着用することで、皮膚や衣服に放射性物質の付着を防ぎたい、との行動だそうだ。
3月下旬現在、福島第1原発から半径20km以内の地域の方々は既に全員安全な地域に避難されているはずなので、レインコート着用の有用性が多少なりとも考えうるケースは、それより若干外側のエリア(政府が定めた半径20km以上30km以内にお住まいの方々で、基本的に屋内待避扱い)の方がどうしても外出しなければならない時に着用するくらいで、それ以上離れた地域にお住まいの方々にとっては安全なレベルに射線量が下がっているため、レインコートの着用はさしたる意味をもたない。これまた、風評による「安全神話」の類と言えよう。
現在、折しも花粉症のシーズンでもあり、花粉症対策と同等レベルの予防策を講じるだけで空気中にごくごくわずかに含まれる放射性物質の予防にもつながる。
よって、花粉症でない方も少しの心がけで、より安心して過ごせることだろう。もちろん、過度な予防策は意味をなさないが。現状では、このような対策をとらなくとも、健康面に影響を及ぼすレベルではまったくないことを改めて強調しておきたい。
★政府・東電の発表の仕方の問題と不明瞭な安全基準
原発事故の発生に伴う政府や東京電力の説明は、一般市民に対して不親切に思う。「基準の何倍」とかいわれても、その基準とはどのようなものなのか? 「安全」というけれど、その根拠は? よくよく考えてみると、一般の方には分からないことばかりだ。
一般の方がこのような疑問をいだき、漠然とした表現ゆえに不安に感じることは無理なきこと。きちんと、一般にも分かり易いかたちで「基準」を示すべきなのだ。単に、訳の分からぬ数字を羅列したり、いままで聞いたこともない単位で述べられても、ますます不安が増すばかりだ。政府や東電の発表は、この点で正確さとは別に、不適切だと言えよう。
しかも、通常はミリシーベルト単位で表現する場合でも、マイクロシーベルト単位での発表では見かけの係数が3桁増え、ますます不安が増大する。
いま盛んに述べられている「ベクレル(Bq)」とは、1秒間に原子核が何個崩壊して放射線を放つか、という放射能の量を示す単位。1ベクレルとは、1秒間に1つの原子核が崩壊して放射能を放つ放射能の量で、100ベクレルだと、毎秒100個の原子核が崩壊して放射線を発する。
※病院にあるレントゲン装置は電気的に放射線を発生させるので、放射性物質は使っていない。
一方、「シーベルト(Sv)」とは、生体への被曝の大きさを示す単位。放射線の強さは、放射線源からの距離の2乗で反比例する。(距離が2倍になれば4分の1に軽減される。)
また、その間に遮蔽物があれば、生体への被曝量はさらに軽減される。(そのために、原発から20km以上30km未満のエリアにお住まいの方々に対し、「屋内待避」を奨めているのである。)
※そのほかにも、放射線関係には様々な単位があるが、この場では混乱を避けるために割愛する。
★放射線技師の被ばくの程度は?
では、川田さんのように、業務として日常的に放射線に接している放射線技師の被ばくの程度はどれくらいだろう。そして現実に、健康面に何らかの影響があるのだろうか?
川田さんのような医療放射線業務への従事者は職業被ばく限度として、年間最大被ばく量を50mSv、5年間で最高100mSvが実効線量限度と定められている。
※緊急作業は250mSvまで。これは人命救助を例外とした国際基準(500mSv以内)での緊急作業の原則が存在し、その値の半分以下である250mSvまでならば急性症状は認められない、との基準で定めている。
実際の医療の現場では、診療放射線技師が介助などのために患者さんに近づいて撮影することも多く、そのために防護衣は着用するものの、年間10mSv前後の被ばくをするそうだ。(すべての診療放射線技師がそうではなく、業務内容により異なる。)
業務中は個人被ばく線量計という計測器を装着し、厳密に被ばく量を管理をしている。また、放射線業務従事者用の健康診断は1年に1回、法令で義務づけられているが、川田さんが被ばく線量で異常値を示したことはいままで一度もないという。
ましてや、一般の方が原発から拡散した放射性物質で被ばくしたとしても、その線量は放射線技師が日常的に浴びている線量と比べても桁違いに小さな値に過ぎない。そのことからも、過度な心配は無用といえるだろう。
今後の推移を見守る必要はあるが、現時点で過敏症的に慌てふためき、不安に思う必要はまったくない。どうぞ、デマや風評に惑わされぬよう、ご注意願いたい。
★「義援金詐欺」にもご注意を!
さらに、人々の善意を食い物にした「義援金詐欺」事件も発生していると聞く。このような犯罪行為は鬼畜にももとる卑劣なもので、公安当局にはよりいっそう厳しい姿勢で検挙・取り締まりを願いたい。また、法改正をしてでも、厳罰化を実施すべきだろう。
いま、私たちができうることは、信頼できる義援金窓口に浄財を預けることで不正を未然に防ぐことだと思う。こちらも、くれぐれもご注意を。
★まとめ
現在、大気中、水道水中、原発近隣の海水中に検出されている放射線レベルは、たとえ短期的に摂取しても、まったく健康被害の心配のないレベルに過ぎない。長期的な摂取は理論的には健康被害をもたらす可能性があるものの、現実には常識的な日常生活・食生活を送っていれば懸念されるような事態にはなり得ないため、そのような心配も無用である。
ただし、乳児に関しては、一定の配慮が望ましいが、それとてやむを得ない場合には、水道水でのミルクの投与も許容範囲内である。
したがって、現状では過度な不安や心配を抱く必要はまったくなく、風評に惑わされてヨウ素入りのうがい薬などを飲用したり、ミネラルウォーターをはじめとする不足気味の生活物資、飲食物の買い貯めに走ることは厳に慎むべきである。
みなさんの理性ある行動が、いま何よりも求められているのである。
最後に、今回の地震・津波により犠牲となられた方々のご冥福をお祈りすると共に、お怪我をされた方々の1日も早いご快癒を、そして家屋や財産を失われた方々の1日も早い復興を祈念いたします。
★参考文献
『放射線概論』飯田博美 編(通商産業研究社)
『放射線取扱の基礎(3版)』氏平祐輔・他著(日本アイソトープ協会)
『医用放射線辞典(3版)』医用放射線辞典編集委員会 編(共立出版)
『医療人のための放射線防護学』高田純 著(医療科学社)
★参考考Web
日本核医学会HP: → http://jsnm.org/japanese/11-03-18
聖マリアンナ医科大学HP(医療被曝について)
→ http://www.marianna-u.ac.jp/Radiology/patient/007792.html