Sunday, December 16, 2007

◯フィッシュ。フレッシュ。

最近おさかなに凝っている。

オフィスのある鳥居坂を
シンガポール大使館の壁に添って下った先の麻布十番入口にある
美味しい昼食を食べさせてくれる割烹。

炭火があかあかと燃えるカウンター前の調理場で
大胆に串刺ししたフレッシュフィッシュを
手元の用意周到さを明かしながら
「今日は本マグロがいいですよ。」などと
香ばしく大胆無敵に焼き上げて
きゅっとひきしめた大根おろしをのせた大皿に盛り
あつあつの出来上がりをどーんと差し出される。

ほかほかの白いごはんにちょっと明太子も小皿で添えて
満腹セットはひんやりフレッシュフィッシュのお刺身付き。
織部や志野の器も美しく
繊細にしつらわれた茗荷や胡瓜の千切りのつまと共に
そっと粋にイキ良く脇だししてくださる。

本マグロの顎の炭火焼。
銀むつの柚子香焼。
関さばの炭火焼。
氷見ブリの照り焼。
名物の銀しゃけ炭火焼。

毎度の昼食にほっぺが落ちそうになる。

その店のご主人には哲学があって
「夜出すものを昼出してはいけないはずがない。」
そのようなわけで
早朝に築地市場でその日のイキのいいネタを仕入れたら
お昼っから夜メニューに出すようなすてきな鮮魚を
どーんとランチプライスで振る舞ってくださる良心良店。
そのような次第だから
昼間っから熱燗を傾けてご機嫌ご満足の馴染み客も多い。

常に手を動かしているご主人といつもいろいろ話しを交わす。

「ねえ、せっかく食事をするんだから
 1回でも満足いかないものを食べたら
 人生損するよねえ。」なあんていいながら
さーっとあなごの頭をコンと一刺、
すーっと皮を見事に剥いでさばいてゆかれる。

いつしかそのご主人とずいぶんご近所話で盛り上がるようになった。

ここに出店したのは一年前。
六本木5丁目から歩いて鳥居坂まで歩いてきたとき
その空気感の清浄な気配への変化を感じ取ったそうで
ここで店をもてたならと胸の内が熱くなった由縁あってか
あるビルオーナーからいまの場所の出店話がふっと降ってきて
いつのまにか定まったのだという。

「ありがたいことですよ。
 こうしてお客様もだんだん来ていただけるようになって
 この店をどうにか切り盛りしてゆける。
 これから先がどうなるかわからないけれど
 とにかくおいしいものを精一杯お届けしてゆくことしか
 僕にはできませんからね。
 この商売は神様にお守りいただいていると思うんですよね。」

とても丁寧な信心深甚のご人物だから
「ご近所の麻布十番稲荷さんにも行かれますか?
 ご利益甚大ですよ。」なあんて伺ったら
ちゃんとちゃんとお店に通われる毎朝欠かさずに参詣して
「いつも感謝をこめて参拝しているんですよ。」といわれる。

そうしてある昼には面白いお話を伺った。

カウンターでお昼間っから熱燗上々、気焔を吐いているお客様。
店のご主人が「先生」と呼ぶその人は
そのお店のコンサルタントをなさっている先生だそうで
カウンター越しに丁々発止の対話が続く。

「だからねえ、人ってのは、何にも視ていない訳。
 そこのコーヒ−屋の前で、このヒト(店のご主人)とさ、
 一万円札をまるめてくしゃくしゃにして道に落として
 路上観察したわけよ。何人が気がついたと思う?
 ね、6人の男女がね
 その紙切れを蹴っ飛ばして気がつかないで通り過ぎたね。
 誰も気がつかないんだよね。
 その傍に100円玉を置いてたって気がつかないんだからねえ。」

ご主人もうなずきながら
手元で本まぐろのお刺身に包丁をいれている。

「だからさ、よく視なくっちゃね。
 幸せがここにあることに気づかないことに
 気づかないんだからさ。
 このヒトもよく視て仕事してくれないと困るんだよねえ。
 こっちの魚よりもあっちの魚の方がおおきいじゃない。
 どういうこと?」

相当にご酔深のご様子。ご主人と丁々発止。
そのうちにちょっと煙草と外に出られた。

そうしたらご主人がにこにこして語りかけてきた。
懐から「大切にしているんですけどね。」と言って
麻布十番お稲荷さんのお守り袋を出して見せてくださる。
「中に何がはいっていると思います?」なんて言いつつ
のぞかせてくださった。

そこにはいっているのは金銀財宝ざっくざく。
そう思わせてくれる色とりどりの何枚もの落ち葉だった。
「まあ。」

何だか拝見してはいけない秘儀に触れてしまったようで
ちょっと恐縮して目をまんまるにしていると
「いえね、実は僕は、小さい頃からお瀧修業していましてね、
 あるお坊さんの傍で丁稚をしていたことがあるんですよ。
 でね、その古寺でね、近所に住んでいる賢い狸がね
 毎日お坊さんのあげるお経を聞くんですよ。
 そうしてね、幾度もお経を聞きこんでいるうちに
 古狸になる頃にはね、狸も法力を得るんですよねえ。」
「はあ。」

ある人が瀧に打たれて修業をしているうちに
神様の声が聞こえて天啓に目覚めるようになった。
そのうち神様とお話ができるようになって
神様が何でもお願い事を叶えてくださるという。
そうしてある日のこと瀧に打たれながらその人が
「私にも金銀財宝を賜りたく願います」と神様に伝えて
目をつぶって瀧の中で手をかざしたなら
その掌にぽとっと何かを授かった。
はっと思って目を開いてみるとその手には
小さな小石が乗っていた。
なあんだこんなものと
その小石をぽーんと放ったなら
きらりと光って滝の流れの中に消えて行った。
以来、ずーっとその人は金銀宝石を手にしそうになると
するりとその手から滑り落ちるように
その財を逃すようになってしまったという
狸に化かされたお話。

滋味深くお話を伺っていたら
「ね、このあたりには狸穴といって狸も出るそうですから。
 境内にいて目の前に木の葉が落ちてくると何だかね、
 ついついいただきもののような気がしてしまって。」
そう言ってご主人が笑う。

猿も狸も狐も蛙も。
このあたりには確かに法力念力宿るものたちの
確かな言い伝えが多種多様に受け継がれている。

麻布十番稲荷上は私もお世話になっているオーナーの敷地。
その森には狸が出たことがあると
昔オーナーの奥様からお伺いしたこともある。

そのようなことをひさしぶりに思い出し
その帰りに何だかふらりと麻布十番稲荷さんに立ち寄ってみた。
そうしたらいつもお世話をしてくださる宮司さんが社務所におられて
にこにこ話かけてくださる。

かの拙著-『「販売の現場力」強化プロジェクト
-収益を倍増するブランド教育のすすめ』のこと。

「書店でよくみかけますよ。」とおっしゃってくださり
「神社にもこういうコミュニケーションこそが大切ですから。」

いま、神社内の皆様でなんと輪読してくださっているのだという。
ブランドコミュニケーションに興味をもってくださって
お知り合いにも広めてくださっているとのこと。
2冊ほどサインを求めてくださった。
今年記念に贈られて大切にしている
モンブラン100周年モデルの
ちいさなダイヤモンドの輝きが宙空に浮かんでいる
特別万年筆でご依頼のお名前を入れさせていただいた。

そうしたら
心ばかりの御礼ですがと
金銀財宝に恵まれる特別御札をくださった。

驚きと共に大感激して恐縮しまったのだけれど
ちょっとばかりほっぺをつねって確かめてしまった。

そのような次第でその翌日もまた
美味しいおさかなランチをいただきにお店に伺った。
大切な秘話をしていただいた昨日の御礼に
「昨日はどうも。
 実はお稲荷さんにお伺いしまして・・・」
拙著を携えて挨拶代わりにご主人にお渡しした。

「わあ、これはこれは。すごいなあ。いいですねえ。」と
お優しく喜んでくださって
「あとでじっくり読ませていただきますから」
そう言って
サランラップで本をていねいに包みはじめられたからびっくりした。
ぐるぐるグルグル
お刺身と同じくらいに丁寧にラップをかけてゆかれる。
またまた掌をつねって夢じゃないかしらと確かめてみた。
つねったら痛かった。

「あの?」
「だって、鮮度が落ちちゃうでしょ。
 本の中身のフレッシュさを大切にとっておかないと
 読む時にいまのこの味がかわってたら嫌だもんね。
 損しちゃう気がするでしょう?」
そう言って、サランラップ巻きになった本を
大切に抱えてくださった。そんな気配りが嬉しかった。
それにしてもはじめての見聞。

さて楽しく美味しく昼食を満腹終えてオフィスに戻ったら
ちょっと面白いニュースをみつけて
リサとおさかな談義とあいなった。

かつてライアル・ワトソンが「生命潮流」のなかで記した
101匹目の猿と例示したような事件が
鱒の仲間に起きているらしい。
ある日ある養殖場の鱒の一匹が
養殖池に水を注いでいる配管から脱出したら
次々と他の鱒の仲間たちが同じようにし始めて
脱出するようになったというお話。
写真をみてびっくりした。

http://www.environmentalgraffiti.com/?p=600





この養殖場のご主人も
何十年もこうして仕事をしているけれど
こんな様子はいまだかつて見たことも聞いたこともないという。
実際には
鱒くんたちがこの池を脱出しようと
スティーブマックイーンのように意志と知恵が働いた
というようなわけではなく
鱒の産卵期にその水の流れを自然の瀧と見紛って
瀧登りしてしまったという
生物学的見解かもしれないけれど
それにしても生命力の不思議を思わせるおさかな事件。
一匹がそれに気づくと
皆んな気づくようになるということの
生命の生成発展上の意識連鎖は興味深い。

その驚異の生命力で勢い瀧を昇る登竜門の逸話を思いながら
内なる生命力の広がりを見つめてみる。
何か新鮮な新しい情報がジーンにミームに潜んでいるような
わくわくする感覚が沁み込んでいるような気がしてくる。

今宵はミシュランに輝くすきやばし次郎さんの
六本木ヒルズ支店へ。
またまたお行儀良く並んだ端正なおさかな談義を
カウンター越しにもの知りご主人と交えることができるだろう。
ほんとうにおさかなのことをよくご存知で
お鮨の味わいはもちろんのこと
お話の味わいが深い。
すっと指し出されるひとつひとつのおさかなの正調な表情が
美しい指先の振舞から紡ぎだされる。

まだまだフィッシュ談義はフレッシュに。
当分フィニッシュしそうにない師走。