◯福笑。
久しぶりに友人の電通の京さんと深夜まで語り合った。
出会って10年。
さまざま時折重要なタイミングで肝心の話を巡らす。
家族と呼んでくれる存在だ。
けれど
じっくり仕事のこと・人生のこと・よしなしごとを
話すのは、半年ぶり。
お互いにそんな時間の経過を驚き合うものでもある。
Roppongi Hillsのオフィスライブラリーの窓からは
いつのまにか
六本木ミッドタウンの高層フロアーが
すっかりのぞくようになっていた。
遠く狭山から手前に
赤坂御苑・国会議事堂・アークヒルズ・銀座・汐留と
Tokyoパノラマをひとわたり眺望できるゲストルームBで
それははじまった。
就職活動真っ最中の
ちょっと光っている電通入社希望の学生さんに
京部長がとことん「迫る」というテーマが
今日のきっかけだった。
4年前のある日
京さんは「何だか社長賞もらっちゃってさ」と
弾んだ声で連絡してきたことがある。
私たちもとても嬉しかった。
その電通の部長職にある京さんは
いうまでもなく
業界的にも個人的にもたいへん超忙しい人物である。
その人のことを学生さんが一生懸命つかまえて
とことん情報収集に迫るというのはわかるけど
その京さん、ちょっと変わってる。
京さん流の当世学生さんへのもてなし方というのがあるのか
「ねえ、君さ、世の中って何だと思う?」からはじまる。
「新明解国語辞典ひいてごらん」と京さんからぐいぐい迫る。
京さんと学生さんのやりとりをただ黙って耳を澄ましていた。
「君の人生のテーマってさ、
「広がる」じゃん。
それって何?
何でそれで電通に入りたいの?」
「ひととひととのあり方を幸せにしたいんです。」
「幸せなあり方って何?」
「・・・」
「それってコミュニケーションのこと?」
「はい」
「どんなコミュニケーション?
例えば?
それって何?」
「楽しい・悲しい・嬉しい・親しい・・・」
「それをどうしたいの?」
「ひとが知らないことを知り合うことで豊かになる・・」
「・・で?
そうなるとどうなるの?
何がいいの?」
「・・・」
禅問答である。
京さん流の深耕分析。深交分析でもある。
8年ほど前に京さんは、心理カウンセラーの勉強を積んだ。
だからやみくもに学生さんを追い込んでいるわけでは
もちろんなくて、
世の中のこれはと思う若人に愛情を注いでいる瞬間でもある。
答える側の姿勢もよかった。
寡黙になるときには、その人の頭の中でぐるぐるとこれまでの
21年間の人生経験の情報履歴のスキャンが行われていて
「適正解」を求めているのがわかる。
彼らの間にある磨き抜かれたガラステーブルの表面に
リフレクションしてうつりこんでいる空の雲。
その雲の合間の一点、どこまでも澄み渡った青天井の色が
映え映えと美しい。
どのようにこたえるべきか?と同時に
どのようにこたえるとよいか?
そのような勘所をもっている優秀な青年に
京さんは「揺るがし」をかける。
「正解」を求めない。
その先にある答え手のこころの「本質」に
迫ろうとする彼の熱意だ。
だから、たいてい学生さんの頭のなかは混乱するだろう。
でも、京さんは、仕掛けたら、
途中でいい加減に放置はしない人でもある。
親でもないのに、わざわざそんな深交を結ぶ瞬間。
京さんは子供の頃、大人にいろいろ貴重な社会経験を
与えてもらった経験の持ち主である。
小学生の頃に
夜店を広げるテキ屋さんにかわいがってもらって
「世の中」を教えてもらったという話を
出会ってすぐの頃に聞いた。
フーテンの寅さんのようなおじさんが
「坊ちゃん、世の中ってーのはね・・」とばかり
京少年に何を教えたのかどうかは定かではないけれど
京さんの直感的すこぶる迅速行動を伴う状況判断力は
どうもその頃に培われたらしいと
私はにらんでいる。
そのような京さんがいいおじさま大人になると
このような若者とのコミュニケーションが
とりわけ利害関係などの計算なしに
心底「創発」することになるらしい。
もう2年前ほどになるけれど
慶応義塾大学の名誉教授でいらっしゃる
高橋潤二郎先生にお伺いしたお話がある。
「これからのマネジメントは
エタックマネジメントであるべきでしょう」と。
工程表があってシナリオがあって正解ゴールをめざし
その正解からそれているのに気づいたら
当初のライン上に戻し修正するという
ナビゲーションタイプのマネジメントからの
更なる変革モデルである。
それは時代のカレント(潮流)を読み取って進むプロセスを
重視するマネジメントで、語源はポリネシアンの海中に漂う
中で潮を読む「エタック」という言葉に語源を置く。
結局、ゴールは設定しきってしまわない。
そもそもの正解とされたゴールそのものよりも
よりよいゴールがあればよりよい結果となるのである。
もちろんナビゲーションタイプのマネジメントも
効果的ではあるけれど
それだけでは現代の時流のマネジメントには追いつかない。
時代は動いている。風の中を漂うかのごとく。
だからこそ
京さんのような直感的すこぶる迅速行動を伴う
よりよいゴールというヴィジョン型の状況判断力が
実践的には必要であり肝要ともなる。
でも、もちろん、
それももともとのナビゲーションレベルが理解されてこそ
その型をふまえたうえでの、飛躍モデルでもある。
京さんが、学生さんに一言一言こだわって
真剣に禅問答を繰り返すのは
彼の現状の現場感覚からの
切実な心情の吐露のようにも聞こえてきた。
彼がもし人財を求めるのであれば
このような一筋縄にはいかない
不確実性といわれる「世の中」で
何をよすがにして渡るのかという
「本質」を共有できる原石なのだろう。
けれど、なかなか「世の中」
デキル優等生は多いが
その枠を超越して未来への変革にのぞめる
同志としての「逸財」との出会いは
まさに神様のみぞ知る
付与される「縁(よすが)」のものである。
「正解」よりも
その先にある切磋琢磨した輝きを放つ
「未知の可能性」に夢をみて
京さんのエネルギーは炸裂し
対峙する学生さんも、就活のためのという次元を超えて
人同士の対話のリズムに乗った時、
今日の時間はこれまでとなりました。
「今日はこのあと飲める時間ある?」ということになり
京さんおすすめの恵比寿のお店へ。
店内にはいってびっくり。
赤い蝋燭の灯火がやわらかく映える店内には
各所の大きな壷に春のネコヤナギがたっぷりと
万感の情で春の到来を告げてくれるしつらい。
天井から降り注ぐように
やわらかな春の精が見おろすなかで
おいしい春の野菜三昧。
たらの芽のてんぷら、若竹の子のおさしみ、
青アスパラや小粒トマトの朝露的鮮やかなおいしさ!
その名も「福笑」。
みんなで、未来への目鼻を設える
福笑いトークが続々くりひろげられましたとサ。
ひさしぶりに美味しい気分にメデタシ・メデタシの
もうすぐ春到来の夜。
帰りのタクシーの車窓からも
時折にのぞく街角の白梅のつぼみがいずれも美しく。